3年間の広島高等裁判所事務官,13年間の裁判所書記官,裁判所主任書記官として,裁判所での事件を取り扱ったことを基礎に,主として、刑事事件における令状事務についての実務上の問題点を検討しつつ,これからの令状事務は、どうあるべきかを論じてみたいと考える。広島地方裁判所本庁の刑事訟廷事務室在勤中に経験した実務を基本にして論じてみたい。経験した事件の中で著名なものは、少年がバスジャックした西鉄バスジャック事件、オウム真理教事件、タクシードライバーによる連続婦女強姦殺人事件(これは、被告人は、一審で死刑判決を受け、控訴せずして確定し、執行された。),尾道での大量の難民が上陸した難民認定法違反事件である。西鉄バスジャック事件については,被疑者が少年であること,そして,マスコミによる過剰取材に,特に配慮した。オウム事件については,令状発付についてのいわゆるダブルスタンダードが問題視されたが,果たしてそうなのか,そうではないと考えている。尾道の大量難民については,裁判官そして裁判所書記官を大量動員したが,個々の裁判所書記官の令状事務を徹底させることに配慮するとともに機動的に勾留質問がなされるよう広島地裁本庁の法廷(通常は常設の勾留質問室)を利用した勾留質問を実行したことが強く印象に残った。令状事務の過誤防止のため,裁判所書記官を対象とする令状事務の研修会の講師をしたことは,私には,特に勉強になった。即ち,刑事訴訟法を中心に刑事訴訟規則,裁判所法に及ぶ事前準備を要した。この時までに,記した令状事務の諸問題を,換言すれば,実務上,現実に生じた令状事務の諸問題について論じていきたいと思う。法の不存在の問題がある一方で,実務を基礎に,自己の見解を記そうと思う。また,これと反する見解があれば検討してみることにしたい。公判中心主義という原則は,重要な原則ではあるが,令状事務は,捜査機関に強大な強制力を付与するものであり,その強制力がひとたび違法性を有すれば,人権を侵害するものであるとともに,公判での審理,判決に影響を与えるものであることを忘れてはならない。人権侵害は,性質によっては,その回復が不可能なケースがある。その意味において裁判所の司法的抑制という機能を念頭に論じてみたいと思う。また捜査段階でも既に当事者主義という機能は始まっているのであり,この意味で弾劾捜査観という概念も前提として検討してみたいと思う。本論文はまず捜査構造論そして逮捕状発付について,次に勾留状発付について最後に各種令状についてという順で検討していくものである。

 第1章

捜査構造論について

 捜査構造については、糾問的捜査観と弾劾的捜査観とに大きく分類することができると思われる。すなわち糾問的捜査観は捜査の主体を捜査機関として考え、対被疑者との関係で二面的に考える捜査観である。弾劾的捜査観は裁判所を中心に捜査機関側と被疑者側との三面関係で考える捜査観である。これによって発付される令状の性質や被疑者の地位が異なってくる。糾問的捜査観からは逮捕状は裁判所による許可状でありまた被疑者は取り調べの対象となる。弾劾的捜査観からは逮捕状は命令状でありまた被疑者は当事者の1人ということになる。実務ではかなりの面で糾問的捜査観の立場を採っているようであるが私見では今後の捜査は弾劾的捜査観を重視するべきであると考えている。立法的に考察してみると、現行の刑事訴訟法は職権主義、糾問主義的要素もあるが、当事者主義、弾劾主義的要素も存在すると思われる。刑事手続きを個別に分断し、それぞれの手続きがどうあれば良いのかを個別に判断して立法していると思われる。その結果、現行の刑事訴訟法は統一的理念に支配されることなく立法されていると考えられる。手続法は理念と実務の妥協的要素の強い法律であるが故にやむを得ないものであると思われる。しかし問題とするべきは近年の捜査機関の捜査の手法が糾問的要素が強い傾向にあるという点ではないかと思われる。逮捕直後から起訴までの間の被疑者の処遇が重視されていないように思われる。その意味で弾劾的捜査観の重要性を再検討してみることが大切ではないかと思われる。すなわち失われかけている弾劾的捜査観を再発見する必要があると思われる。現行の刑事訴訟法の職権主義そして糾問主義的要素を否定するのではなく現行の刑事訴訟法のもう一つの理念である当事者主義要素そして弾劾的捜査観的要素を再考し実務に反映させることが必要ではないかと思われる。以下、1被疑者の取調べ、2接見交通権、3検察官の接見における指定という事項について順次、検討し弾劾的捜査観の重要性を指摘したい。

1 被疑者の取調べ

 逮捕された被疑者が、まったく何もされずにただ身柄の確保の為、留置場に居るということは国民感情または国民の法的感覚からも不自然である。すなわち逮捕された被疑者は捜査官に弁明の機会を与えられるとともに、捜査官としては真実発見の為に取調べを行うべきである。弾劾的捜査観からは被疑者は取調べ目的に身柄を拘束されたのでないから、取調べそのものを拒否できるとも言える。しかし現行の刑事訴訟法は被疑者の取調べそのものを認めつつも、機会に応じて反論する権利を有していることも認めているのである。多くの被疑者が外部との接触を断絶された上での供述を強く求められている現状があるのではないかと思われる。この点で糾問的捜査観と弾劾的捜査観の調和が図られるべきであると思われる。現状の逮捕初期の被疑者の取調べには、まさに弾劾的捜査観が入り込む余地がないようである。長時間の取調べや心理的圧迫等が過去の遺物ではなく現在でも行われているようである。

2 接見等禁止決定について

裁判官は被疑者に対して懲罰的に接見等の禁止決定をするのではない。証拠の隠滅等の危険があるから決定をするのである。つまり犯罪悪質であるから接見等の禁止をするのではないのである。しかし捜査官は接見等の禁止決定が「被疑者の悪性が強いから」という解釈に基づいてなされているという現状があるように思われる。つまり同じ窃盗犯でも接見等禁止決定がなされた被疑者は「悪性が強い」という観念が捜査機関に強く働いているように思われる。接見等禁止決定がなされていようがなかろうが、被疑者には同じ弁明、反論の権利があるのである。糾問的捜査観を実務とする捜査機関は「接見等禁止決定」がなされた被疑者をより糾問的に取調べをしている傾向があるように思われる。

3 検察官の接見指定について

勾留された被疑者については弁護人は検察官の通知書及び具体的指定1に制限されながら接見をせざるを得ない。しかしこの検察官の指定は被疑者の防御の権利までを侵すことはできないのが現行の刑事訴訟法の理念である。しかし私見ではこの指定が必要以上になされているのではないかという危惧感を持っている。この指定制度そのものは捜査構造論的には糾問的なものであると言える。この制度そのものを否定するわけではないが、準司法官としての検察官は弾劾的捜査観の見地も考慮して指定をするべきではないかと思われる。初動捜査が重要であることと同じように初動弁護活動も重要であることも忘れてはならないと思われる。現状の検察官の指定が現行の刑事訴訟法が予定している以上に糾問的なことを危惧している。

捜査構造論の小括

 現行の刑事訴訟法は手続きの違いによって、糾問的捜査及び弾劾的捜査をそれぞれ当てはめていると思われる。2その意味でどちらか一方の理念のみを採用しているとは断言できないと思われる。しかし、今、現状としての問題点は初期捜査つまり初期の被疑者の取調べがあまりにも糾問的過ぎるように思われる。具体的事情のもとでは被疑者の権利を保障するために弾劾的捜査観が入り込む余地が図られるべきであると思われる。糾問的か弾劾的かの二者択一が求められているのではなく、この両者の調和が必要ではないかと思われる。3接見等禁止決定がなされている被疑者の実母が、手作りの糧食を差し入れるため捜査機関に持参したところ、「毒が入っているかもしれないから。」という理由で差し入れを拒絶されたという事例を経験したことがある。刑事訴訟法上の接見禁止決定でさえ禁じられていない糧食の差し入れが、なぜ拒絶されたのか疑問である。ここで感じることは初期の被疑者の取調べ段階において、捜査機関に糾問主義的観念が強いということである。被疑者の自白等を得るためには、まずは何が何でも外部との接触をさせないという意図が伺われる。まさに被疑者は取調べ目的の身柄拘束を甘受しなければならないのである。これからは糾問的捜査観と弾劾的捜査観の調和を図る必要があるのではないかと思われる。4

   第2章

 1  逮 捕 状

  逮捕状の請求は,公安委員会が指定する一定の警察官と検察事務官及び検察官がなし得る請求である。刑事訴訟法上は警察官については公安委員会が指定する警部以上の司法警察員となっている(第199条)。これは実務的に所轄の課長級である。この請求を受けて裁判官は逮捕の理由及び必要性を判断し,発付または却下する。逮捕状には,通常逮捕状と緊急逮捕状の2種類がある。現行犯逮捕については捜査機関において,現行犯人逮捕手続書が作成される。

逮捕状請求及び発付手続きにおける諸問題

      @ 被疑事実の具体性と抽象性の調和

   事 例 1  被疑事実として,覚せい剤を摂取した事例

   場所の特定として「広島県内またはその周辺で・・・・・・」と請求されることがある。通常は最小行政区内の「広島市またはその周辺で・・・・・」と記載されているが,「広島県内」では場所の特定が広範過ぎて,場所の特定が不十分ではないかという批判がある2。被疑者段階から既に,刑事訴訟法の原則である当事者主義が開始されているのであるから,攻撃・防御の上で場所の特定は必須であるとする立場からの主張である。確かに,逮捕状の被疑事実は将来的には訴因に発展し,その特定の問題が生じることになる。しかし,捜査の初期段階で捜査機関にそこまでの特定を要求することは酷ではないかと思われる。任意同行を求めてまたは自首してきた者が覚せい剤を使用した事実は認めるが被疑者その者が,場所の特定ができなくなっている場合,これを許さないと捜査機関は身柄の拘束ができなくなる。その後の捜査に大きな障害となると思われる。結論的には「広島県内またはその周辺で〜。」という場所の特定は許されると解される。そう解しても被疑者の攻撃・防御を侵害するとまでは言えないと思う。実務でも同様な運用がなされている。

 B 使用した日時について「平成16年8月3日から同年8月17日までの間〜。」        と約2週間の幅のある期間を記載して逮捕の請求をする場合がある。これについ    ても場所の特定と同じく肯定してもよいと思われる。被疑事実の特定は被疑事実    そのものがその後の捜査の発展でより鮮明になるものであるから,捜査の初期段    階での厳格な審査は要求されないと思われる。大切なことは,被疑者の人権と捜査が及ぼす影響の調和であり,また具体的に言えば被疑者が同一事実で逮捕されるという逮捕の蒸し返しを許さないということであると思われる。

事 例 2

 逮捕状請求書に氏名,住所,職業等が全て不詳で,その容貌等が記載されている場合

被疑者の特定は,令状発付上,極めて重要な問題である。勾留請求においても度々,見られる問題である。誤認逮捕を司法的抑制によって防ぐにも捜査機関に可能な限り,被疑者を特定させる必要がある。しかしながら,いわゆる公園等の路上生活をしている者の犯罪を捜査する場合,被疑者の職業,住所はもちろん氏名すらも捜査の初期段階では判明できないケースがあることは,実務上 よくある。自称でもあれば良いがそれでも特定が難しいことがある。こう言ったケースは被疑者が黙秘している場合であることが多い。捜査機関ができる限りの特定に努力をしているか等,検討すべきと思われる。特定の方法として項目を考えてみる。

             1 太っているか痩せているか平均的か。

               男性か女性か。

             3 身長は約何センチメートルか。

               服装はどのようなものか。

             5 眼鏡はかけているか。

               頭髪の状態はどうか。

例示的ではあるが,この程度の特定を捜査機関に課しても酷ではないと思われる。大切なことは住所,氏名,職業などが請求時に特定できない理由を付することが必要であると思われる。しかし私は,今日の写真技術の発展を考えてみるに,請求書に別紙写真の男性(または女性)として添付することが一番望ましいと思う。事実,私が担当した逮捕状の請求に何度か写真コピーを添付したものがあったが,この時に写真コピーに優るものはないと強く実感した。ただ,捜査機関が写真コピーに頼り過ぎることは好ましくないと思う。なぜなら住居不定は勾留理由の一事由になるからである。請求書の一件記録上,特定に努力したが特定に至らなかった理由を記させるべきである。

事 例 3

逮捕状の更新にあたって有効期間を3か月として請求してきた場合の措置

  逮捕状の有効期間は初回は原則7日である。しかしその更新については,刑事訴    訟法及び刑事訴訟規則上,何らの規定がないことから問題となる。確かに捜査機関側からすれば長期の有効期間が認められれば,更新請求の手間が省け都合の良い場合がある。しかし事件,事故の事実は流動的に変化するものでありその間に逮捕の必要性や理由等も変化することがあることを考慮すれば,徒に長い有効期間を認めることは原則認めるべきではないと思われる。捜査機関が長期間の有効な令状の必要性をある程度,疎明してきたとしても私見では1か月の有効期間が限界であると思う。認めた事案は罪名が重くかつ被疑者が逃亡している事案で,一件記録上その所在の判明には長期間を要することが推認できる事案であった。逮捕状の更新請求には回数の制限はないのであるから,その都度,司法的抑制(審査)を受けるべきと思う。

事 例 4  逮捕状請求の撤回は認められるか。

  これは,実務上、経験した中で,非常に困難な問題であり,また,多くの撤回の申し出事例があり,その都度,裁判官と協議した問題である。即ち,請求を却下するかどうかのかけひきの問題である。逮捕の必要性等について,捜査機関に追加資料を要求すると,「取りあえず撤回させてくれ」と要請してくることもよくあった。実務上,撤回には,3段階の局面があると思われる。

・第1局面 請求があって,受付け手続きをし,また担当書記官が形式審査をし     ていない場合

・第2局面 既に担当書記官が,形式審査に入っているか,済ませている場合

・第3局面 担当裁判官が実質的審査に入っているか,済ませている場合

以下,第1局面から第3局面に分類して,論じたいと思う。

   第1局面の場合

この場合,何らの審査に入っていないので,撤回をさせることは,許可すべき     と思われる。ただし,担当裁判官の同意は,必用であると思う。実務上も,事実上の裁判官の同意を得て,撤回を許しているようである。これらの多くは、捜査資料の追加を失念していた等,捜査機関が自発的に請求の誤りを認識してのものが多く、司法的抑制をそれ程,強調すべきではない段階であると思われる。逆に,捜査機関に確実な請求をさせると言う意味では,是認できると思われる。

      第2局面の場合

  この場合も撤回を裁判官の同意のもと認めるべきと思う。一方で,裁判所書記     官は裁判官から包括的または具体的指示のもと審査に入っている場合は,撤回     を認めるべきではないという見解もある。すなわち裁判官による何らかの判断     をするべきであるという考えもあるが,裁判所書記官の審査は形式審査なので     あるから裁判官の同意のもと撤回を許すべきである。実務上も認めている。

      第3局面の場合

  この場合は,特に議論のあるところであり2つの意見に大きく分かれると思わ     れる。撤回を許す考え方と許さない考え方である。許さない考え方は,裁判官が審査に入った以上,撤回を許すことは手続き上の安定を欠き,請求そのものが濫用されるのではないかということを根拠にする。その意味で裁判官は何らかの判断をするべきであるということを論拠とする。しかしながら裁判官が何らかの判断をする義務を負っているのであるならば,請求の認容または却下の他,撤回を許すという判断も一つの判断であると解される。刑事訴訟法及び刑事訴訟規則は条文上,認容または却下の二者択一的判断を要求しているわけではなく,また撤回を許すことを禁じている訳ではない。法律上,禁じられてい     ない事項については裁判官は自己の良心に基づいて判断をするべきであり,裁     判官の裁量の範囲内の問題として撤回も選択の一つとして認められるべきと解     する。実務的にも撤回を許しているようである。

    逮捕状請求の撤回についての小括

  撤回を許すということによって生じる問題は,却下を免れることによって請求が安易になるということであると思われる。しかし判断をするのは職業的裁判官なのであり,安易な請求であれば裁判官は毅然とした判断のもと却下すると思われる。安易な請求,換言すれば不必要な請求こそ却下の対象なのであると思われる。捜査機関にも令状の発付を請求する権利はあるのであり,請求する上での誤りを是正する機会を捜査機関にも与えることが,当事者主義の理念であると解する。そのように考えることは裁判官の司法的抑制を害するものではなく,むしろ司法的抑制の機能を充実化することに沿った考え方だと思われる。なぜなら令状を発付する裁判官は常に被疑者等の人権に配慮しているからである。実務的に考えれば,撤回については事実上,理由を聴取する上,再請求があれば担当書記官は裁判官に再請求である旨を助言する。また刑事訴訟規則(第143条の2)には請求者に請求の理由等を聴取することができる旨規定されていることから,補充捜査の必要性を裁判官が捜査機関に告知する機会を認めていると解される。その結果として令状請求の撤回を肯定した上で再請求を認めるということになると解する。これによって安易な令状請求も回避されるとともに,捜査機関もこの告知を今後の令状請求の参考とすることもできると思われる。つまり令状の却下には法の上で理由を付することは必要ではない。却下された捜査機関にとっては暗中模索の状態に陥ってしまうということも考慮されねばならないと思われる。そう考えれば,裁判官の令状審査における司法的抑制の働きは撤回を前提に請求権者である捜査機関と裁判官との議論という攻防において機能することが実務的に大きいことを忘れてはならないと思われる。以上,考察してきたが裁判官の同意のもと撤回を許すことについては,現行の刑事訴訟法等の法律上,その趣旨に反するものではないと思われる。むしろ令状請求における密行性とともに特に機動性が活かされるのではないかと思われる。ただ実務的な処理として請求書の謄本は控えておき撤回の理由等を付記しておくことが肝要であると思われる。令状事件簿には撤回と明示することも大切である。

事 例 5 捜査機関への不出頭を理由とする逮捕状の発付について

  道路交通法違反等に見られる逮捕状の請求である。被疑者が数回の捜査機関からの  呼び出しにもかかわらず,これに応じず出頭しない場合に,捜査機関が裁判所に逮捕状の請求する例が典型である。実務的な結論を言えば,3〜5回の呼び出しに応じず出頭しない場合には逮捕状の請求をしているようである。そしてこれに対して裁判所は逮捕状の発付をしているようである。しかしながらここで再度,このことについて考えてみたいと思う。すなわち取り調べ目的の身柄拘束は捜査機関には認められておらず,また裁判所もそのような令状を発付するべきではない。なぜならこれを認めれば,糾問的捜査をストレートに是認することになるからである。再三の呼び出しに応じないということは「逃亡」「罪証隠滅」のおそれが高くなると言うことが可能であると解するとともに実務的な以下の理由からこれを肯定したい。発付が許されないということであればこれら不出頭の者に何らの対処ができないということになり不合理である。一方で取り調べ目的による逮捕は許されないことを厳格に貫く立場からは,略式起訴を在宅のまま実行すればよいとする。私見ではこれは逆に公訴権の濫用にあたると疑問を持っている。違法性の程度により刑事刑罰機能は働くべきであり,いくら不出頭が続くからといって起訴に持ち込むことは過剰な刑事機能の威嚇であると思われる。不出頭の責任は確かに自己責任である。しかしそのことで国家の刑事手続きに差異が生じてもいいのであろうかという疑問を持っている。

事 例 6 被告人の別の事件で被告人に逮捕状を発付する場合の注意

   実務的に捜査機関は現に公判中である旨を記載して逮捕状の請求をしてこない。裁判  所側も令状係はすべての公判中の被告人を把握しているものではない。まず捜査機関    は公判中の被告人に対する令状請求である旨を請求書に記載すべきである。逮捕状請    求書にもこれを記載する欄もない。当事者主義を基本とする刑事訴訟法の理念からし    ても,現に公判中の被告人に逮捕状を発付することは慎重であらねばならないからで    ある。以下,公判中の被告人に対して別件で逮捕状を発付することの是非を検討してみる。単純に考えれば,別件の事件であるから逮捕の要件があれば何らの問題はないと思われる(事件単位の原則)。しかし刑事訴訟の一当事者として検察官と公訴事実につき攻防をしている被告人に新たな身柄拘束理由を根拠に逮捕することは,被告人としての検察官との対等的地位を脅かされる危険があることに注意しなければならない。 既に起訴前から発覚している事実での逮捕状発付及びその執行は刑事訴訟における検察官,被告人の平等的地位を破壊することになる。公判中に被告人が別件で逮捕されるということは心理的にも被告人に影響を与えるとともに,物理的にも影響を与える。弁護人との意思の 疎通によって刑事訴訟を遂行している被告人にとって弁護人とのその手段を遮断されることは,それ以後の訴訟遂行が円滑に進まなくなる危険がある。ましてや接見禁止決定等を受けるとその弊害は倍増すると考える。そこで公判中の被告人について,「やむを得ない事由がある場合」が存在する時のみに逮捕状発付が許されると思われる。故に捜査機関は「やむを得ない事由」の存在を疎明する義務があると考える。例えば,起訴後に別件の事実が発覚した場合などは典型的な事由となるとともに捜査中であったが逮捕の必要性や理由となる根拠または証拠を発見するに至らなかった場合などがあると思われる。稀ではあるが別件が時効にかかってしまうという場合もあると思われる。また被告事件に較べて別件が重大犯罪である場合などもあげられる。しかしこれらの場合にも逮捕の必要性及び理由は必要である。ただ公判中という被疑者を逮捕するにあたっての障害はクリアされるだけである。全体的に言えば,被告人たる地位を脅かすことが生じる危険のある場合は逮捕状の発付は回避されるべきである

事 例 7 初回の請求において逮捕状の有効期間が7日を超える請求について逮捕状の発付をすることの是非。

  刑事訴訟規則では逮捕状の有効期間が7日と定められている(300条)。この規定が強行規定なのか訓辞規定なのかである。訓示規定なのであればこの7日を基本に臨機応変に有効日数を定めることができると思われる。私見ではこの日数は原則,強行規定と解する。しかし犯罪はまったく同じものはなく,実務的にも初回の請求時においても更新が予想されることがある。ある程度の期間の猶予を与えれば,捜査機関は余裕をもって被疑者逮捕に着手できる。しかし徒な時間の猶予は被疑事実が流動的なものであり,逮捕の必要性や理由が変化したり喪失したりすることを考えれば,この7日という規定を訓示規定と解して安易に日数を増加させることは許されないと考える。捜査機関に対する司法的抑制という見地からも理由づけられる。実務においても概ね、7日で捜査機関は逮捕状を執行していることを考えれば,相当な日数であると思われる。必要であれば、令状の更新請求も可能なのであるから,その都度,逮捕の必要性及び理由について裁判官による司法的抑制を受けるべきである。ただ例外として被疑者の確保等に時間がかかるが,その確保が期待される場合は初回の請求においても7日を超える有効期間を認めても差し支えないと思われる。ただし,この条件は厳格に解するべきである。刑事訴訟法の大原則である司法的抑制を弛緩させる危険があるからである。実務的には交通違反事件で,捜査機関からの数回の呼び出しにも応じず出頭しない者に対して14日(2週間)の有効期間を求めて,請求してくる場合があったが,厳格な基準のもと発付した事例がある

 事 例 8 緊急逮捕

  緊急逮捕が憲法に適合するものかどうかの議論もあるが,ここではこの緊急逮捕につ    いての実務的問題を検討していこうと思う。緊急逮捕は一定の重大犯罪(長期が3年以上の懲役刑または禁固刑の犯罪)に対してなされる逮捕である。逮捕時には適法な逮捕であったが,その後,裁判所にその認容を求める時点では,逮捕の理由または必要性が喪失した場合,捜査機関はいかなる処理をするべきであろうか。

         説   何らの手続きなくして被疑者を釈放する。

         説   釈放後すみやかに裁判所に請求書を提出する。

   被疑者の釈放は,逮捕の理由や必要性が喪失されれば,できるだけ早くなされるべき   であり捜査機関は直ちに釈放すべきであるが,一度,緊急逮捕がなされ身柄が拘束されたのであるから,釈放後も裁判所に対してその是非を問うべきである。裁判所は逮捕時における逮捕の適法性とともに請求時における逮捕の適法性を判断するべきであるので,乙説が正論であると解される。むしろ甲説では無令状逮捕を許してしまう危険がある。すなわち司法的抑制の機能が働かない状態となるからである。実務的には「逮捕時の逮捕は適法であるが,請求時においては,その必要性(理由)がない。」と逮捕状請求書の余白に記し,形式的には令状事件簿に却下と記入している。以上は捜査機関が緊急逮捕の合法性を求めて裁判所にその請求をし,裁判所が同趣旨で却下する時も同様であると解される。この場合,被疑者は釈放されていないので捜査機関は却下後,速やかに被疑者を釈放すべきである。

事 例 9 少年法の改正により逆送が14歳以上の少年となった。とは言え年少少年の逮捕については,少年法における少年の要保護性を考慮しつつ判断されなければならないことには変化がないと考えられる。改正少年法を考慮してみるに,故意によって被害者を死に至らしめた場合は,その少年が16歳以上であれば通常の判断基準で逮捕状が発付されても問題はないと思われる。問題とすべき、は逆送事例ではないが,14歳から16歳程度までの年少少年の被疑事件についての逮捕状の発付である。少年法の趣旨すなわち少年の要保護性を貫徹すれば,逮捕状の発付はできるだけ回避されるべきである。しかしここで考えなければならないことは,今日における若年少年の犯罪の悪質性である。成人の犯罪以上に重大性,悪質性がある場合が多くなっている。この点と少年法の理念をどう調和させるかが大切であると思われる。少年の重大犯罪が各地で多数、発生している現在において避けて通れない問題である。近年、重大な犯罪を引き起こす少年については,法律上、家裁において検察官の立ち会いのもと審判が行われるようになった。しかし検察官がいくら立ち会ってもそれによって少年犯罪について問題が解決されるわけではないと思われる。

 

第3章

勾留状

被疑者段階の勾留請求は、捜査機関が被疑者を逮捕して検察官が裁判官に対し請求するものである。これにより、勾留質問をし、その上で裁判官は、勾留の是非を判断する。勾留の理由、必要性があれば裁判官は勾留状を発付し、これがなければ却下することになる。この裁判に不服の者は準抗告を申し立てることができる。簡裁の裁判官の判断に対しては、その上級庁の地方裁判所がその準抗告の申し立てに対して裁判し、地裁の裁判官の判断に対してはその裁判官が所属する地方裁判所が判断する。

 刑事訴訟法の教科書ではこの制度の目的や、趣旨が触れられているが、実務上、令状事務において、しばしば申し立てがなされ、しかも原則、実務的には即日決定を出す必要性(身柄が確保されているので、ひいては憲法上の自由の問題)があるため、慎重かつ迅速性が要求される重要な手続きである。勾留請求が認められなければ、検察官はほぼ準抗告を申し立てる一方で、私選弁護人がついている全部否認または一部否認の被疑者であれば、この準抗告を申し立てることが多い。

勾留は被疑者が逮捕されていることが原則である(逮捕前置主義)。それを故に、逮捕事実と、勾留事実の同一性の問題が生じる。また、二重勾留も、実務的にはよくあることである。以下、勾留に関する諸問題を考察してみたい。

1 逮捕事実と勾留事実の同一性について

やはり、実務的には、基本的事実に同一性があるか否かで判断してきたが、起訴状における訴因変更とは少し異なることに注意するべきである。逮捕状記載の被疑者事実は勾留請求記載の事実に対して、やや抽象的になっていることがある。これはやはり、被疑者が逮捕され、弁解録取書が作成されたりまた捜査がなされたりするため、少し事実が熟してくるということである。換言すれば、比較的、勾留事実の方が詳細になっているということになれば、適法であるということになると思われる。

問題は、逮捕状記載の被疑事実の方が詳細である場合は、その同一性について検討するべきである。しかし、事実の同一性があれば適法だと考えられるが、被疑者側において、攻撃防御に支障が生じるまで、抽象化された勾留事実は不適法と考えるべきである。例えば、「覚せい剤を注射した。」という逮捕状の被疑事実が「覚せい剤を何らかの方法で摂取した。」という事実の変化は許されるが、「注射した。」という事実から、「買い受けた。」という事実の変化は許されないと考えられる。

前者の変化は、抽象化されたものの「自己使用」という基本的事実に変化は無いが、後者は、事実が両立し得るからである。

事実の同一性が、令状階段でも、判断されなければ、勾留請求における逮捕前置主義は、無意味となる。すなわち、令状発付における司法的抑制は、意味をなさなくなるのである。

2 軽微な事件で、将来的には略式起訴により罰金刑で終結する事件について、勾留の必要性があるか。

確かに、国民感情からは、勾留の必要性はない。いたずらな身柄拘束はさけるべきであるとする考えもあろう。しかし、刑事訴訟法の立て前からは、勾留理由と必要性があれば勾留状を発付しなければならないと思われる。言い換えれば、すべての犯罪について勾留制度は平等なのであり、罪の軽重によって勾留の裁判が左右されるものではないと思われる。勾留理由の60条1項 1号・2号・3号は、特に犯罪を区別するものではないのである。勾留の裁判の基準は法定化されたものであり、その範囲内で裁判官は裁判をする裁量を有しているのみであると考えられる。すなわち勾留理由の1号・2号・3号は人的(被疑者本人の)問題であると考える。それは勾留の裁判は犯罪の軽重や裁判の終局の態様によって左右されるものではないと考える。

3 住居不定について

勾留の裁判にあたって、住居不定であればそれによって勾留理由は存在することになる(法60条1項1号)実務で問題となるのは被疑者が友人宅に自分の家財道具を置き、2〜3ヶ月は一緒に生活していたか。数ヶ月はその友人宅に戻っていない場合、住居不定として勾留の理由になるのであろうか。住民票がその友人宅に移されているとしても、刑事事件の処理にあたっては現在の住居が問題なのである。したがって行政上住民票が移っているといった一事実で住所が存在するとは速断できない。つまり形式的住所の問題ではなく、実質的住所の問題である。被疑者本人がその友達宅に帰還する意思を持っていると述べてもその不在が数ヶ月に及んでいる場合は、やはり住居不定ではないかと考えることもできる。数ヶ月もその友人宅に帰還していない場合はいくら被疑者が述べても住居とは言えず「住居不定」となるのではないかということも考えられる。そこで、その友人の供述が欲しいところである。つまり、被疑者を受け入れる意思はあるのか生活費、例えば家賃や水道代、光熱費等はどうなっているかという供述である。捜査機関がその関係の資料やその友人の供述を録取していればかなりの参考になるが、実務的にはそこまでの資料・供述調書があることはめったにない(私は担当した事件でもないことが多かった。)。そこで勾留質問において被疑者の住所が設問のようであるとし、被疑者が住居はあると述べる一方で捜査機関の勾留請求書には住居不定となっている場合、裁判所はいかなる裁判をすべきか判断をせまれることになる。捜査機関に補充捜査を指示することは難しくないが、時間のなさ、つまり勾留状発付の機動性を害する危険がある。それで私が実務的に体験したことから一定の基準を考えたいと思う。まず、被疑者がどの程度、どこに居住していたか。住所といえる為には少なくとも、一ヶ月程度の居住期間を要すると考える。次に、本人から食事や日常生活はいかなるものかを問うべきと思われる。すなわち食事の準備は誰がしていたか、洗濯や、風呂はどのようにしていたかである。身の回りの状況を一つ一つ、聴取することにより、次第にその生活状況がわかりそこから主観的には居住の意思、客観的には居住の継続性が推認できるものである。まさにここは裁判官の勾留質問の技術に依処するところである。従って通常の勾留質問にようする時間より長い質問となる。

4 被疑者段階での国選弁護人

現行刑訴法では公判段階での国選弁護人の付与を認めている。これは憲法の要請を受けてのものではあるが、これで被告人の権利が充分に保障されるのであろうか。[1]

被疑段階で情状までが確定してしまい、情状事実さえも争うことが出来ない事案が多くある。実務では、被疑者段階でも当番弁護士を依頼する制度があるが、この制度は現実的に機能していないように思える。まず第1に自白事件の被疑者は、ほとんどこの当番弁護士を望んでいない。いくら自白事件でも情状を立証するのに、被疑段階でも弁護人は必要である。また、弁護人がいない被疑者は多くが捜査機関に有利な調書ばかりを取られている。これでは情状において、被疑者が公判段階において被告人になったとき、被告人の悪性ばかりが強調されることになる。刑罰は必要以上に科するものではない。弾劾的捜査観からも国選弁護士制度またはこれに類似した制度が被疑者段階でも必要ではないかと思われる。

5 少年の勾留請求に対して観護措置を決定する場合。

少年の勾留状の発付は、少年法48条1項により「やむを得ない場合」でなければできない。これは、少年の勾留状発付につき、法が要件を加重したものである。検察官が「やむを得ない場合」として、勾留請求をしても、裁判官がこれに該当しないとして、判断した場合、裁判官はいかなる処置をすべきかである。まったく身柄拘束の必要性がなければ却下すれば良いが、身柄拘束の必要性があり、観護措置を決定すべきと判断した場合、裁判官は観護状を発することができるかである。肯定説、否定説、そして差し換え説の3つがあるが、これを検討してみたい。肯定説は、勾留請求には観護措置の請求を含むとする大は少を兼ねると言う論拠のようである。否定説は、勾留請求と観護措置の請求は、その趣旨が、異なり、性質も異にするものであり、却下すべきであるとする。差し換え説は、検察官に連絡し請求を差し換えさせることにより、論理を明確にさせようとするものである。私は肯定説を支持するが、単に大は小を兼ねると言う論拠では、少し乱暴なように思う。確かに勾留請求には観護措置の請求の趣旨を兼ねると言うことは否定できないが、まずは身柄の迅速な処理が念頭に置かれるべきであると思う。少年にとってはそれが勾留であれ観護措置であれ身柄拘束に変わりはないのである。否定説をとると、それは、検察官による準抗告を招来するのであり、いろいろな争いが生じることにより、少年の身柄拘束が長くなることが懸念される。差し換え説は、始めに結論があり、手続(請求)を結論に合わせるだけのものであると解する(弾劾的捜査観から馴染まない。)。少年の要保護性と捜査の必要性との調和を裁判官に図らせることが重要であると思われる。裁判官は広い裁量の中で、少年にとって何が一番必要な処分であるかを判断することができるという手続きの機動性からも肯定説が支持されるべきである。私が経験した本問のようなケースで差し換え説を採った裁判官もいたが、多くの裁判官は肯定説を採っていたようである。ただ、最近の少年の犯罪の重大化に伴って、少年に対してそのまま勾留状を発するケースが多くなってきたのも事実である。私が一件記録から判断するものであるが、最近の少年の犯罪には以下の特徴があり、それが原因で勾留状を発付することが多いと分析していた。

(1)少年犯罪の複雑化により、数名また集団による犯罪が多くなり供述がそれぞれ異なることが多い。

(2) 少年が、全く黙秘し、真実の発見に時間を要する。

(3)少年の犯罪が組織化し、下部の者が上部の者に対して意識し、真実を語らない。

(4)被疑少年達が狡猾で互いに罪をなすりつけあったり裁判所の処分から逃れようとするケースが多くなっている。

(6)被疑少年達の背後に暴力団等の組織があり、犯罪性の深度が深くなっている。

これらの理由により少年の要保護性よりも捜査の必要性が優先されている結果、勾留状の発付が多くなっている私見では考えている。                                            

6 余罪捜査と勾留延長

余罪捜査の為に勾留延長が可能であるが「やむを得ない理由」が存在すると、検察官の請求により裁判官は通じて10日間の範囲で勾留の延長を決定することができる。すなわち、10日の範囲内であれば何回でも、この請求ができるのである。実務的にはしばしば勾留延長の請求が検察官によってなされるが、その「やむを得ない理由」というものが「余罪捜査の為」として請求してくることがよくある。事件単位の原則を貫けば、そもそも余罪捜査の為の勾留延長は有り得ないのであるが、いくら事件単位の原則とはいえ勾留の対象は一人の被疑者あり、事件単位を貫けば逮捕のむし返しと同様、勾留のむし返しとなり、被疑者の身柄拘束が、徒に長期になる危険がある。これを考えると、勾留の延長を許して10日以内に捜査を完結させ、起訴・不起訴等の裁判を検察官にさせれば被害者にとって身柄拘束の時間が短くなるという利益が生じる。本来の事件単位の原則を放棄し、被害者にとって有益であれば余罪捜査の為の勾留延長は許されると解する。ただ、勾留延長決定がなされても、裁判所からの勾留通知のような制度がなく、弁護人等への通知制度がないことは法の不備ではないかと疑問である。なぜなら、勾留延長の決定も、準抗告の対象なのであるから、迅速に弁護人等にも、通知すべきである。裁判官の判断ということで司法的抑制という審査をクリアしているものであるが、「捜査段階からの当事者主義」「弾刻的捜査観」の趣旨には沿わないと思われる。

7 勾留請求が却下され、検察官がこれに対して準抗告を申し立てるあたり、執行停止を申し立てることの是非。

消極説は、勾留請求が却下されたのであるから、身柄拘束の根拠が失われるとし、積極説からは、それは準抗告の制度そのものが意味をなさなくなるとする。すなわち準抗告申立ての間、被疑者が罪証隠滅または逃亡する危険があるとするのが積極説の根拠である。以下、両説の主張を検討してみる。消極説の主張は次のようなものと考えられる。

身柄拘束というのは例外であり、本来の当事者主義的発想からは身柄不拘束が原則なのであるから、勾留請求が却下されたのであるならば、原則にもどって、身柄拘束から放たれるべきである。

逮捕状の執行により、身柄拘束されるのは勾留の裁判がなされるまでの暫定的処置であるから、拘留請求却下の裁判があれば、その暫定的身柄拘束の根拠は失われる。

積極説の主張は、次のように考えられる。

確かに逮捕状の執行による身柄拘束は暫定的なものであるが、法が準抗告制度を採用しているのであるから勾留請求が却下されたという一事でこの暫定的身柄拘束が許されないということにはならない。

抗告の場合に、原裁判の執行停止を準用した刑事訴訟法424条、312条が存在し、条文上の根拠は存在する。

もし、裁判官が身柄拘束を許さないのであれば、釈放命令を出すべきである。

実務的には執行停止の申し立てがなされ、執行停止の決定をして、準抗告審の判断を待つようである。逮捕が拘留請求の為の暫定的身柄拘束であれば、勾留請求そしてその裁判も準抗審の判断が出るまでの暫定的判断であると考えられる。勾留請求に対し、却下の裁判が執行力を持つのであれば、当然釈放となるが、準抗告により勾留が認容されれば被疑者は収監されることになり、被疑者にとって心理的動揺は隠せないと思われる。しかも、この処遇は短時間であるので、被疑者の地位もまた不安定なものとなる。法が、準抗告制度を認めたその趣旨は、被疑者を一度の手続きで被疑者段階での地位を決しようとするものであると考えられる。換言すれば、逮捕から準抗告審の判断までをひとつの手続きで処理しようと法が定めたものと解され、その間に釈放したり、収監したりすることは許していないと解される。公判における第一審から最終審までの間には、相当な日数、時間があるが、逮捕から準抗告審の判断までには、相当な日数、時間はないのであるから、法は短期の期間と考えているように思われる。しかも、この間に複数の司法的抑制の力が及んでいるのであるから、手続きの確定性(安定性)を優先するべきと思われる。従って私は、勾留の裁判が却下されたということで被疑者を釈放しなければならないとは解さない。結論的には勾留請求却下の裁判には、被疑者を釈放すべき執行力を持つものと考えるが、その執行停止の申し立てが検察官からなされ、これが認容されれば先の却下の裁判の執行力はまさに停止されると解する。

8 接見等禁止決定について

接見等禁止決定にあたって、弁護人または弁護人になろうとする者以外との接見等を禁止することがある。これが接見等の禁止決定である。これによって被疑者は勾留状によって勾留される以上に外部との交通を制限されることになる。実務上、しばしば勾留請求とともにこの接見等禁止請求がなされるが、勾留を認めても、接見等禁止の請求は認めないこともある。実務においては裁判官は勾留決定の是非以上に熟考を要求される決定である。以下、この接見等禁止決定についての問題点を考察してみようと思う。覚せい剤犯罪等の場合の暴力団の構成員が被疑者であって、この者が事実の核心部分につき否認した場合は、実務上ほぼ請求どおりに接見等禁止決定を出していた。罪証隠滅などが組織的に行われる危険が大きいからである。この点については、問題は無いと思われる。時として被疑者から、病気の妻や親戚などだけは、面会させてくれとの申し出がある場合等がよくある。接見等禁止決定の時点ではその真偽等が判明することは少なく、やはりこれは許されないと思われる。病気であっても面会に来れる者であれば、そこから証拠の隠滅が計られる危険性があるからである。もし、この妻や親族などが重病であるなら、改めて勾留執行の停止を求めることも可能であることを告知するべきであろう。何回も勾留質問を受け慣れた被疑者は接見等禁止決定について何らかの面会排除者の例外をよく求めてくるが、接見等禁止決定の本質[2]を考えれば、簡単に被疑者の申し出は受け入れるべきではないと思われる。実務上、判断に苦しむのは少年についての接見等禁止決定である。少年法の要保護性を考慮すれば、まず接見等禁止決定を出すべきか、また出した場合でもどのような決定内容にするべきか判断に苦しむところである。[3]車やバイク等の集団暴走行為や集団リンチ、そして集団的窃盗・強盗等に接見等禁止の請求がある。すなわち、組織的犯罪には少年についても接見等禁止請求が勾留請求とともに検察官からなされる。しかし、ここにおいて確認すべきことは、まず観護措置請求に換えて、勾留請求をし、そしてその上に接見禁止請求をするのであるから、もはや検察官は成人の犯罪と同じ程度の犯罪性を認めていると解される。共謀の程度や内容そして誰が主犯格なのであるか、背後に組織的犯罪集団があるかないかなどの捜査の必要性を要求してくる。こう言った場合の裁判官の認容理由は「事案複雑による捜査の必要性」である。

この場合において考慮されなければならないことは、観護措置請求に換えて勾留請求する理由と、接見等禁止の請求をする理由は、異なることである。換言すれば、観護措置請求をせず、勾留請求をするということは少年の要保護性よりも事案を捜査し、解明することを優先していると言うこと、そして、将来的には逆送に基づいて起訴も辞さないということを捜査機関は意識しているということである。それ故に、犯罪事実そのものを考慮して勾留請求して来るという事である。それに対して、接見等禁止請求については成人犯罪と同じレベルで、むしろ犯罪事実を離れて、証拠が隠滅されるかを主たる理由とするものである。従って、勾留理由と接見等禁止の理由は同じようで、観点が異なることに注意を払うべきである。

勾留理由である罪証隠滅の恐れ(法6012号)とは、被疑者自身の隠滅の恐れであるが、接見等禁止の罪証隠滅の恐れは、それが被疑者からの指示等による被疑者以外の者が主体となっての罪証隠滅である点で異なる。その意味で、少年事件における接見等禁止決定の是非を判断する上で、犯罪の集団性が特に考慮されることになる。

少年の接見等禁止決定の内容におっては次の2点で、成人と大きく異なる。

 

@ 接見等の禁止除外者に法定代理人である両親を含める。

A 接見等の禁止決定の効力を成人であれば通常「公訴に至るまで」とするが、少年については「家裁送致に至るまで」とする。(これは少年事件が全件家裁送致であり、家裁送致されたならばそれ以降は、家裁の判断に任されるのが少年法の趣旨である点を考慮したものである。)

9 以下、少年である被疑者に、接見等禁止決定をする場合を考察してみる。

少年の被疑者に、接見等禁止決定をする場合は、一般成人より厳格な基準で判断すべきかである。

罪証隠滅する点では成人であろうと少年であろうと同じであるから、少年だからといって厳格な基準を要するものではないとする立場がある。この考えは接見等禁止決定は、犯罪、すなわち罪体を基準とすべきであるとする考え方と思われる。犯された事実から、客観的に判断する立場である。しかし、罪証隠滅行為は、まさに個人である被疑者を無視して考えられないのであり、接見等禁止決定は一人の人たる被疑者に関してなされる人的関係に帰属する決定と思われる。そう考えると接見等禁止決定は、被疑者個人の諸般の事情が考慮されなければならないと思う。それ故に、被疑者が少年であるか否かは重要な要素であると思われる。

まず接見等禁止決定は、少年については、原則、消極的であるべきである。少年法の趣旨とともに、少年を外部との交通を遮断する環境に置くことは、少年にとっては大きな心理的負担となり、誤った自白の誘導につながる恐れがあるからである。

少年について、接見等禁止を積極的に解する場合は、第一に犯罪の重大性が存すること、第二に否認していること、第三にその否認が通謀によって証拠隠滅につながること、第四に当該犯罪が組織的になされた事案でその解明がされていないこと等の大きく四つの条件が満たされたときという厳格な基準が要求されるべきであると思われる。

次に接見内容であるが、これは前述したとおり法定代理人である両親との接見を許すことは必須であると思われる。弁護人選任等のためである。

両親等が不存在の場合は、親族そしてこれに代わる者を、一件記録から見つけ出し、これらの者との接見を許す内容とするべきである。一件記録から見つけ出せない場合は、直接被疑少年に尋ねることも肝要である。

 

被疑者の接見の一つの方法

 

刑事訴訟法上、弁護人または弁護人となる予定の者は、被疑者に接見禁止決定がなされようと、立会人なくして被疑者と接見できる(刑訴法37条)。検察庁での被疑者との接見を制限されたと弁護人が、国家賠償の請求する事案がある。そこで、弁護人の接見の仕方の一方法を考えてみたい。身柄が、勾留決定を受けて、拘置所または代用監獄に移送されてしまうと、検察官の通知書または具体的決定が障害となって弁護人または弁護人となる予定の者が十分に被疑者と接見できないことがある。そこで、勾留請求される被疑者については、あらかじめ、裁判官に裁判所での接見を申し出れば、勾留質問の前に、接見ができることに注視して欲しいところである。一応の取調べ後ではあるが、72時間、すなわち逮捕されてから3日前後の被疑者に接見できることに弁護活動の重点を置いてもらいたいところである。一応の取調べと言ってもせいぜい、弁解録取調書等の初動の供述ができあがっている程度の時間である。私選弁護人として選任される弁護人が、早い段階で選任される場合は一早く裁判所に、裁判所での接見を申し出ることにより、被疑者の多様な権利が守られると思われる。また被疑者の心理的負担も軽減できる。この接見の申し出は実務上、口頭でも受けているし、電話でも受けている。私の経験ではあるが裁判官が、この接見の申し出を却下したことは一度もない。接見時間は、およそ20分前後であるが、それでも被疑者の権利を守るためには、相当な意義ある弁護活動の一つではないかと思っている。この裁判所での接見の申し出の数が少ないことは残念である。接見が制限されたと言って国家賠償を求めることも、一定の意義はあると思う。しかし、国家賠償の認容の判決がでたとしても、当該、被疑者にとっては自己の刑事事件とは関係ないものである。実務的にも、弁護人または弁護人となろうとする者は、この裁判所での接見を大いに活用してもらいたいところである。

 

第5章

各種令状

1 捜索許可状

捜索とは一定の場所において犯罪事実についての証明をする為の物または人の発見を目的とする行為を言い、その結果、強制的に有体物を捜査機関が取得することを差押えということができる。実務的には、捜索許可状として令状を発付することは少なく、「捜索差押許可状」として、捜索と差押えを許可する一通の令状を発付することが一般である。捜索しても差押えの許可がなければ、捜索の意味はなく、また差押え許可状が発付されてもそれを捜索することができなければ意味をなさないことは一般的に理解できるであろう。

その捜索許可状についての大きな注意点は、憲法の通信の秘密との関係である。例えば、被疑者宛の郵便物を郵便局内で捜索すること、また最近は当然に使用している携帯電話の通信記録などを通信会社において捜索すること等は、憲法の通信の秘密を侵害することとなるので、捜索許可状は発付できないとするのが、実務である。したがって、任意に提出された当該捜索物に限って、差押許可状によって、強制的に取得することができると考えられている。まさに、憲法に配慮した令状処理と考えるが、時として、捜査機関はこれらの通信物に対して、捜索差押許可状の請求として、求めてくることがあるので、その場合は、実務では是正を任意的に求めている。大は小を兼ねるということで是正を求めず、差押許可状のみを発付する考えもあるが、憲法の条項も、令状事務においては、考慮すべきことを告知することが今後の令状請求において、捜査機関には参考となると考えられる。実務的な事実上の司法的指導と個人的には理解している。

次に、公園等の公共の場所についての捜索許可状を求めてくる場合がある。公共の場所や、地方自治体などが管理している場所は、通常は捜索に協力するものであり、令状発付の必要性がないと思われる。実務においても、2.3例の経験があるが、令状発付は、強制処分であり、いたずらな発付は、控えるべきであることは言うまでもない。これらについては、全て撤回してもらった。考え方によっては却下するという考えも成り立つが、司法的抑制というより、司法的指導という理解である。却下ということになれば理由を捜査機関に告知することは、令状担当の裁判所書記官としては難しくなり、自発的に撤回してもらう方が理由を告知しやすいという基本的考え方が裁判所側にあると思われる。なぜなら、令状却下には、理由を付することは必要ではないという大前提があるからである。裁判官が理由を付さないのに、それを裁判所書記官が告知することは、その職域を超えた行為と思われるからである。

一例をあげれば、ワシントン条約で取引等が禁止されている動物を『国道の近くの芝生』に埋めて、証拠物を隠ぺいした事実に関して、捜索差押許可状を請求してきた実例があった。もちろん、国有地なのであるから、強制処分にはなじまない事案であった。任意捜査で十分である。

2 差押許可状

この差押許可状については郵便物等の差押えをする場合に、発付していたことを特記したい。

すなわち、刑事訴訟法条100条に記されているが、郵便物の差押えはその官署等の職員が、任意に選別して差し出したものを差押えできるのであって、捜査機関は当該官署等を捜索することは憲法上許されないのである。これを見逃して発付した令状に基づいて得られた証拠物件は、後に公判で違法収集証拠となる可能性があることを実務的に注意すべきである。

3 強制採尿

覚せい剤犯罪等において、よく行われる強制採尿はいかなる令状によるべきかは最高裁の判例によって、捜索差押え許可状によるべきであるとされ、一応の実務的結着がついた。そしてその後の最高裁の判例で「被疑者を最寄りの病院まで、連行することができる」旨の文言を付すべきことも、実務では定着したと思われる。今、私がここで提唱したいのは、強制採尿の為の特別な令状を刑事訴訟法に盛り込むべきであるということである。二段階による最高裁の判例で、解釈論的に解決してきたのであるが、もはや、立法的に解決すべきであると思われる。すなわち、『強制採尿許可状』とも言うべき令状の創設が必要なのではないかと思う。実務的にも強制採尿の為の捜索差押許可状は、月別に見ても、よく発付したものである。学説においても、各説がその根拠と令状の種類をそれぞれ主張しているが、どの説を検討してみても所詮は各令状の性質を技巧的に利用したものに過ぎず、ここにおいて立法的に解決するということが、実務的見地からは望まれるところであった。

(1)差押え物件の特定

差し押える物として、いくつかの物件を例示して、最後に「その他、本件に関する一切の物」と記載して請求してくることが多い。この記載の仕方により、差し押さえる物件が、捜査官の裁量によって決められてしまうということは周知の問題点である。そこで、この「物件の特定」の方法において、差し押え物件を限定する方法を検討してみたい。ただ、

その前に過度の特定を要求することは、逆に捜査の障害となり、真実発見の壁となることも考慮する必要がある。捜索・差押えによって被疑事実及び被疑者の特定に至ることもあり、被疑者逮捕より先行する捜索・差押えがあることを忘れてはならない。従って、差押え物の特定にあたっては、捜査の濫用と真実発見との調和がとられなければならないのである。 

@     被疑事実を添付することにより関連する物を特定させる。

捜索差押許可状には、被疑事実を明示することが要求されていないが、あえて明示することにより関連する物を特定させる方法である。実務的には、すべての捜索差押許可状に添付していた。

A     罪名の余白に該当する条項を明示する。

例えば、「地方公務員法違反等○○条」と記載する。これによって、地方公務員法のいかなる条項に違反するのかを明確にして、その関連物を特定させることができる。守秘義務違反なのか、政治的活動違反なのか等で、差し押さえるものを特定できるのである。

B 最後に、一般論ではあるが、捜索差押許可状が捜査の端緒を見出すようなものであってはならない。すなわち、一般探索的な捜索差押許可状は許されない。 

4 強制採血に必要な令状

実務では身体検査令状と鑑定処分許可状の抱き合わせで、強制採血を認めている。主として飲酒運転におけるアルコールの血中濃度を測定する為のものである。強制採尿に較べればその頻度は少ないが、これも判例によって確立された令状方式によるものである。従って、強制採尿と同様に、これも立法的に強制採血令状として認められることが必要なのではないかと思われる。

(1)強制採尿及び強制採血における立法化

この二種類の強制処分については、実務に携わってみて、特に立法化が必要であると考えてきた。つまり、個人の身体に及ぼす強い影響とともに、精神的苦痛を伴う強制処分なのであるから、立法上の審理を経て、国民の承諾を得るべき性質の強制処分であると

思われる。捜査の上で、また実体的真実の発見の上で、必要不可欠の令状であるが故に、立法上の解決をするべきだと考えている。憲法が保障する基本的人権を犠牲にすることの必要性や、相当性を考慮して、広く国民の承認を受けるべきだと思われる。判例の積み重ねによって成り立っている令状は、刑事訴訟法の理念である、強制処分法定主義   を軽視するものではないかと懸念している。

5 頭髪の強制採取に必要な令状

大麻取締法違反事件において、相当な日数が経過しても頭髪にはその大麻の成分が残るということで、被疑者の頭髪を採取する為に令状を請求してきた事案があった。結論的には、捜索差押許可状によって令状を発付した。この事例は毛根からすべて採取するのではなく。頭髪の先端からいくらからを採取する事例であった。令状に@約何十本程度A先端部分から約何cm B可能な限り被疑者の容貌の変化が少なくなる部位で採取する旨、条件を付した。つまり、強制採尿に準じて令状を発付した事例であった。

以下、令状等のひな形を利用して、各種令状等の記載方法と問題点及び注意点を述べていこうと思う。          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通常逮捕状について

 

@ 被疑者欄について

氏名が判明しない場合は「不詳」と記載する。「別紙記載のとおり」としてその特徴を記載することによって特定する場合がある。時に写真コピーによって「別紙の男性(または女性)」のとおり」とすることもある。写真コピーは捜査機関に請求時に余部を提出させる。

 

A  年齢について                        

 年齢が判明しない場合は不詳とする。不動文字は抹消する。

判明している場合「昭和○○年○○月○○日」と記載する。

 

B 住居、職業について

住居が定まっていない場合は「不定」と記載する。住居はあるがそれが判明しない場合は不詳とする。住居不定については勾留の理由となるので、不定と不詳についてはその区別を明確にする。職業を有しているがそれが判明しない場合は,「不詳」と記載し,有していない場合は「無職」とする。

 

C 罪名について

罪名を記載するが、被疑事実とともに特定の手がかりとなる場合は条文も記載する。単純な記載であれば「覚せい剤取締法違反」「殺人」と記載するが、罪名が長い法律に違反する場合は「別紙記載の犯罪」とすることが稀にあった。被疑事実の内容はその特定について問題が生じることがあるので,確認や問題点を調査することが必要である。

 

D 引致する場所について

 改正前は「代用監獄広島中央警察署留置場」「広島拘置所」などと記載していたが、代用監獄については刑事訴訟法の改正により「代用刑事施設広島中央警察署留置場」と記載することになった。

 

E 有効期間について

 1週間が原則であるので,日数単位で7日である。身柄拘束の単位である初日算入の原則は働かず、初日不算入であるから単純に発付日から七日を加える方法である。

 

F 裁判官名について

記名押印で足りる。裁判官の自筆の署名まで必要ない。

 

G 請求者の官公職氏名について

「広島中央警察署 司法警察員 警部 ○ ○ ○ ○」と記載する。検察事務官や検察官の場合もある。 

 

G 逮捕者の官公職氏名以下は逮捕状が執行された後に記載してくる。この場合起訴状とともに提出されるが,その記載に注意を払う。つまり刑事訴訟法を遵守しているかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊急逮捕状について

 

@ 通常逮捕状と違い「逮捕を認める」という文言になっている。逮捕後の裁判所による認容がなされるのである。却下の場合は逮捕時に逮捕の必要性等がなければ却下となり「本請求を却下する。」という文言を請求書の余白に付記する。実務ではゴム印が用意されそれに裁判官が押印する。また逮捕時の逮捕は認めるがその後の事情で却下する場合は「逮捕時の逮捕は適法であったが,本請求時の逮捕の必要性はない。」と同じく請求書に付記して裁判官が押印する。

 

A また通常逮捕との違いは請求時に「引致の年月日時及び場所」の欄まで記載してくるので、その時間や場所等の確認も必要である。裁判所側にとって緊急逮捕状の請求はしばしば深夜になされることがあり、またその緊急性という性質がより一層の注意を払う必要がある。ただ引致前に逮捕状の請求があることがあるので、一件記録上、明確になっているかどうかも確認する。

 

B 逮捕状は最終的には起訴状とともに検察庁から提出される。一件記録の身柄関係書類として第4分類に綴られる。起訴状は審理の始まりの書類であるので第1分類に綴られる。現行犯逮捕の場合は当然ではあるが逮捕状の提出はないが、「現行犯人逮捕手続書」が捜査機関によって作成され、審理の始めにそれが書証として請求される。

 

C 逮捕状は勾留状とともに裁判所に提出されるのであるが、予断排除の原則から、裁判官は起訴状のみが最初に見る書類である。従って第4分類に綴るといっても予断排除の原則が働くまでは裁判所書記官にその保管義務がある。しかしながら審理が開始されても一件記録そのものは全体として裁判所書記官に保管義務がある。従って記録の貸し出し等は裁判官も含めて、裁判所書記官が管理しなければならない。実務では記録の紛失等の過誤防止のため、貸出簿等を作成している。そして担当する記録は当該書記官のロッカーに保管するということになっている。ロッカーへの保存については期日ごとに置くか、事件番号順に置くか議論の対象になっている。記録の紛失等の対策の問題である。

 

 

勾留状について

 

@まず勾留請求書には日付印による受付をするとともに、受付時間を分単位で記載する。これは刑事訴訟法が時間的制約を課しているからである。

 

A被疑事実については別紙のとおりとするが、逮捕状の被疑事実と勾留請求書における被疑事実の同一性を確認する必要がある。現行犯逮捕であれば既に現行犯人手続書がありまた最初の調書である弁解録取書があるので、それとの同一性を確認する。令状における司法的抑制の重要な確認である。

 

B勾留状は勾留質問調書と一緒に勾留質問後、検察庁に請求書等の一件記録と共に返還する。その後起訴状及び逮捕状とともに裁判所に提出される。

 

C勾留請求を却下する場合は勾留請求書の余白に「本件請求を却下する。」と記載しまた理由を付することになっている。すなわち刑事訴訟法60条の一項各号に当てはまらない旨記載することになる。理由は準抗告審でも判断されることになるが、却下の詳細な理由は一般的に付していない。従って特別な決定書があることは通常ない。

 

D勾留質問には被疑者が日本語に通じない場合は通訳人を付することになるがこの通訳人にも宣誓をさせる。近年は通訳人の宣誓等の過程を記した書面と勾留質問調書が一体化したものを作成している。

E勾留状の執行は検察庁でするので、執行した時間や場所等は検察事務官等が記載することになる。裁判所の一件記録のうちでは勾留状は逮捕状の直後の第4分類に綴る。                                                        

 

                                                                                                                                                         

 

 

 

 

 

勾留質問調書について

 

@勾留質問調書には被疑者に読み聞かせた後、左手の人差し指で指印させる(押印でもよいが通常の被疑者は印鑑は所持していない。)。

この指印を拒む被疑者が時々いるがこの時は「被疑者に勾留質問各事項を読み

聞かせしたところ、指印することを拒絶した。」と裁判所書記官が記す。    

 

A被疑者が黙秘権を行使した場合は,「被疑者は黙って何も語らない。」と調書に記載する。裁判所書記官によっては記載の言葉が多少、異なることがあるが趣旨は同じである。

 

B被疑者が勾留通知を拒んだら、「通知の必要はありません。」等記載する。被疑者が外国人の場合は「国内に通知するべき家族等がいません。」等記載するが時として外国にも勾留通知をしたこともあった。ほとんどの裁判官は勾留通知を日本国内に限定していたようである。その理由は勾留通知が被疑者のために弁護人を選任したり、差し入れをしたりする者への通知であるから短期間のうちに外国にいる者がそのようなことをすることは難しいだろうと言うものだった。しかしその場合に領事官への通知を勧めていた。少年の場合は本人が通知を拒絶しても説得または職権で通知をした。少年の要保護性が理由である。観護措置をとらず勾留するのであるから、少年についてはその法定代理人である父母には最低限、通知するべきであると考えられる。父母がいない場合または連絡できない場合はできるだけ近い親戚等を調べてでも通知をするべきである。しかし学校等の教育機関等は本人のプライバシーの関係もあり避けるべきであろう。

 

C氏名、住居等を一切を黙秘して語らない被疑者でかつ逮捕状の段階から勾留請求まで別紙写真コピーの男性(女性)とある者については、勾留質問調書に「裁判官は勾留請求書添付の写真コピーにより被疑者を特定した。」等記載していたが、人定は重要なものであるからその記載は必要なものであったと考えている。この勾留質問調書は勾留請求記録とともに検察庁に送付する。

 

 

 

被疑少年陳述書について

 

 @この調書は勾留請求に対して観護措置決定をする可能性がある場合など、勾留請求はあったがその処置が不確実な場合に利用する。少年であるが故に果たして勾留決定が妥当かどうか勾留請求記録では判明しない場合などまず被疑少年の弁解を聞いてから判断する場合に使用する調書である。本ひな形は「観護措置請求書」となっているが、これが「勾留請求書」となる場合もある。換言すれば、この調書は観護措置をとる場合でも勾留決定をする場合でも双方に使用するということである。ただ裁判官が勾留請求書の一件記録から判断を留保して勾留質問後に判断するという場合に、この調書を使用したからといって勾留決定しないというわけではない。しかし検察官が「観護措置請求書」として観護措置の請求を最初から望んでいる場合は、裁判官は観護措置の決定をするかどうかの判断をするだけである。観護措置の決定は家庭裁判所だけでなく簡易裁判所そして地方裁判所の裁判官にもすることが許されている(少年法の上では制約はない。)。

 

 A一般的な基準であり罪名、被疑事実等にもよるが18歳以上であれば、検察官が勾留請求をすればそれに基づいて勾留決定の是非の判断をする。18歳未満の少年の場合の判断が難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通報の要請に関する照会について

 

@この書面は被疑者が外国籍を有している場合にその国の領事官に身柄拘束されたことを通報することを要請するか否かの書面である。要請があれば裁判所書記官が通報する。多くの者は通報を要請しないようである。

 

Aこの書面は勾留質問後に直接、裁判官が被疑者から聴取したことに基づいて作成され、勾留質問調書とは別個独立した書面として被疑者から署名・押印または指印を受ける。

 

Bこの通報はウィーン条約または二国間条約に基づく処置である。

 

Cこれは外国人が身柄を拘束された場合のものであるから警察段階でも通報の必要性を聞かれることになっている。警察段階で通報していれば裁判所からの通報の必要はない。

 

D時として領事官からどういう意味かと聞かれることがあるが、性質としては勾留通知と同じものであり、条約に基づく通報であることだけ回答する。

ただし拘束場所等の勾留通知に記載されていることは、領事官への通報書に